トラウマにどう向き合うか

「花と石」ワークをご存知でしょうか。

トラウマ治療の一つであるナラティブ・エクスポージャー・セラピーで使われる技法ですね。

はい。人生史を俯瞰(鳥の目)でみながら、花(良かった体験)と石(トラウマの出来事)を時系列にそって並べ、その出来事を語っていく(ナラティブ)というものです。

自分の歴史にあるトラウマを、お花や石ころに置き変えて視覚化すると向き合いやすくなりますね。

はい。トラウマに伴う様々の症状の根底には回避、つまり避けてしまうという防衛機制があるのではないでしょうか。

真正面から辛い体験に向き合うことは誰でもいやですから、ついつい強引に忘れ去ろうとしたり笑ったりごまかして気にしないふりをしたり、時には辛い体験を思い起こす機会場所を文字通り避けることです。

回避は日常生活でもよくつかってしまいますから、どんな人でも気を付けないと回避の行動が自分の意志的行動であると勘違いしてしまいますね。

精神療法はとても難しいので、お困りの方はネットの情報に頼らずに必ず病院に行きましょうね。

チョっとくわしく
日本人の75%は虐待など子ども期逆境体験(Adverse Childhood Experience:ACE)を体験しているといわれており、ACEと成人後のさまざま精神障害がいわゆるきれいな相関を示すことが知られています。

PTSDの診断基準についてDSM5を中心にしてまとめてみます。少しややこしい話になりますが、DSM5には複雑性PTSDについての記述はありません。複雑性PTSDの診断基準はICD11にあります。下記に示すD症状は「これは複雑性PTSDの症状ではないか」と疑問に持たれるかもしれませんが、それはそもそも複雑性PTSDという診断の記述がない、つまりはPTSDと複雑性PTSDをまとめて記述しているDSM5だからです。
まずA基準として生命の脅威や性的暴力など特定の出来事を体験することがあげられています。しかしながらA基準をみたさないトラウマでもPTSD症状が起こることがあります。たとえば前述のACEの中には両親の離婚、両親の精神疾患なども含まれますが、このようなトラウマでもPTSDとなりえるのです。
B症状は侵入症状ともいわれ、フラッシュバックや悪夢があります。また生理反応でもおこることがあります。例えば、子供のころにいつも両親が夫婦喧嘩をしていた場合、成人期に他者同士の口喧嘩を見ただけで動悸や嘔気がする、などといったことです。
C症状は回避といわれ、トラウマを想起させるような状況を避ける行動です。例えばある公園で性的暴力を受けた場合、公園を避けて移動すること(外的回避)はもちろん、公園というワードを会話でださないようにする(内的回避)などです。またトラウマに関する恐怖や想起を避けるためにアルコールに依存的に頼ることも回避のひとつといえます。
D症状は認知や感情の否定的変化です。トラウマ後認知ともいえます。「自分は無力で価値がない」「他人は信じられないもの」「世界は危険しかない」などと根本的な不信感を持続的にもつようになることです。
E症状は過覚醒で、ささいなことでも過敏、過剰に反応することです。

ではICD11の複雑性PTSDの診断基準をみてみましょう。複雑性PTSDは、PTSDのトリアス以外に、感情調整の困難、否定的な自己概念(自分は罪深い、無価値である、等)、対人関係の困難を三徴とする自己組織化の障害(DSO)がみられるとされます。イメージとして「短期一時的外傷体験」≒PTSD、「長期反復的外傷体験」≒複雑性PTSDというのがありますが、体験した外傷体験が長期反復的か単回かだけで区別することはできません。PTSDとcPTSDの違いは、トラウマの種類や暴露された期間ではなく、DSO症状の有無にあります。

患者様がトラウマの話をしているときに、再体験がはじまり、感情が高ぶって興奮する場合は、治療者は話をやめさせリラクゼーションをすすめます。解離症状がみられる場合は、水を飲む、赤をみつけて指さす、手を強く握る、などの解離がすすまないようにするグラウンディングの手法を用いてもよいかもしれません。

患者様のトラウマ体験を聞くとき、治療者が代理受傷しますが、馴化します。

人が関係するトラウマ体験の場合、患者様は強い不信感などの人格変化をきたすことがあります。また患者様が怒りっぽくなっていることも多く、「PTSDは命の危険に対して自分を守る反応ですから、ちょっと怒るぐらいでは命を守れないので、激しい怒りが出るのです。」などと説明するとよいかもしれません。

交通事故、犯罪など裁判の可能性がある場合は、診療録には診断基準と照らし合わせて症状を記載するのがよいかもしれません。

参考文献
1 心的外傷後ストレス障害 井野 敬子 精神医学 64巻5号 (2022年5月発行)増大号特集 精神科診療のピットフォール
2 PTSD総論 : 気づかれにくい症状とトラウマインフォームドケア 特集 今の時代のトラウマ : 診断と評価、臨床精神医学、西 大輔、巻54号
2 Complex PTSD 千葉比呂美・他、臨床精神医学、巻54号



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